人生の休み時間という名の無職生活を送っております。好きな時間に起きてダラダラ朝ごはんを食べて、夕方までダラダラして。暗くなってからスーパーへ繰り出して、安売りのお惣菜やパンを買い込む。すっぴんで髪もバサバサ。ヒッピーです。ヒッピーライフ。そんな生活もあと1週間で終わり。果たしてわたしは人間に戻れるのでしょうか。
しかし仕事がない生活というのは、非常に不健全でして。朝早く起きなくていい、好きな時間にご飯を食べていい、昼間からテレビ三昧、瞬間瞬間を切り取ると、楽園みたいな生活!最高!って思うけど、はたと立ち止まって1日を総括して振り返るとなんとも虚しい気持ちになる。なにやってんだワタシ・・・と。会社帰りにスーパーで買い物をしてる同年代くらいのOLさんを見ると、なんか妙に励まされたり。みんな仕事頑張ってるなぁ。みんな偉いよ。偉い。
23歳かぁ。まだ23。されどもう23。は?ってか23って何?いつも自分の年齢を理解する前に次の歳がやってくる。23歳を分かる前に24になる。怖い怖い。だけど早く大人になりたい。大人になりたいのは数字じゃなくて人間の話。人間ができていないのに、数字は確実に増してゆくのだから怖い。単純だけど恐ろしい仕組みです。
とかいうことを考えるよね。無職って。困ったね。一晩寝たらもう忘れるけどね。あまりにも暇なので、音楽聴いたり、本読んだり、テレビとかお笑いDVDとか観たりしているんだけど、よく考えたらわたしの趣味って受け身ばかりなんですよね。目や耳から取り入れるものばかりで、能動的な趣味がないので、たまにはアクティブなことをしてみようかなと奮起しまして。といってもアウトドア派ではないので、家の中でできることがよくて、そうなってくるとわたしは料理か製菓が向いてるので、久しぶりにお菓子づくりでもしようと。柄じゃないけど、昔からお菓子づくりは好きでクッキーやパウンドケーキを作るのが好きなんです。まぁ食べるのが好きっていうのもあるけど。材料揃えるのが面倒だから遠のいていたけど、ネットのレシピをみていたらなんかやる気が出てきたわけです。
前に友達が作ってくれた洋酒漬けフルーツのパウンドケーキが美味しかったことを思い出したので、そうだ ドライフルーツの洋酒漬けを作ろう!と思い立ちまして。なんかモテそうだし。お洒落だし。ってことでネットで必要なものを調べて、いざ富澤商店へ。しかも田園調布の富澤商店だからね。洒落てるだろ?無職女が出かけるところじゃねーよ。てか初めて行ったけど田園調布という街がまずお洒落で笑っちゃう。
買うものは、瓶詰め用の瓶と、ドライフルーツと、洋酒。マイヤーズラム、グランマルニエ、ブランデー。何やら大人な響きです。てんでお酒に弱く普段からアルコールに縁のないわたしにとって、洋酒を買うなんて完全に大人なお買い物。心踊らせながら店内へ。
えーっと。まずはラム酒ね。これはまぁ実家にもあったし、見覚えのあるパッケージだわ。結構お値段するのね。200ml、766円。
それからブランデー。200ml、637円。ほう・・・。
https://tomiz.com/item/01828100
グランマルニエ。200ml、1501円・・・。
ちょっとタンマ。気づいちゃったけどフルーツの洋酒漬けって、無職が始める趣味じゃない。「タンマ」って言葉 久しぶりに聞いた。自分で言ったけど。
えっ高くない???そんなにするん?ちなみに一回の洋酒漬けに必要な分量は、ラム200ml、ブランデー150ml、グランマルニエ100ml。全部買ったらいくらになるか分かるかな?洋酒だけで3000円弱。でもって、言うまでもないけどメインはフルーツなのでね・・・。洋酒だけブレンドして瓶に入れても何も始まらないのでね・・・。プラスドライフルーツ購入したら軽く4000〜5000円。
洋酒売り場の前で、額に玉の汗をいくつも浮かべながら震え上がる女。脇汗が滝。まずい。ここまできてUターンして帰るのは悲しすぎる。でも無職女の洋酒漬けフルーツの野望がここに砕け散ったことは否定しようのない事実。誤魔化しようもなく詰んだ。どうしよう。テンパったわたしは何を思ったかマイヤーズラムと瓶詰め用の瓶だけをカゴに放り込みレジへ突き出す。オイ。それだけ買っても何も始まらないぞ。過去の自分よ。あとで「なんでラム酒と瓶だけ買ってきてんの・・・」ってなることが想像できなかったかい?
放心状態でなんの迷いもなくレジでお会計を待っている間、店員さんが紙コップを差し出した。
「暑いですね。よろしかったらどうぞ」
いいえ、この滝汗の原因は暑さではありません。高さです。洋酒の値段の。と言うわけにもいかず、紙コップを受け取り一口飲むと、冷たい麦茶だった。でもただの家の麦茶とは何かが違う。香ばしくて変な後味がない。そうか。これが田園調布住まいのマダムが普段から飲んでいる麦茶か。思わず、おいしいですねと言葉が出る。しかし忘れないでほしい。確かに美味しいのだが、それは夢破れた傷心の状態で飲んだから割増で美味しく感じているだけなのである。大失恋の直後に優しくしてくれる男がどんなに不細工でも、白馬の王子様に見えてしまうような感覚と同じ。
店員さんがレジ前の棚に積んである袋を指差す。
「この麦茶、売れてるんです。水出しもできますよ」
「そうねぇ。頂こうかしら。おいくら?」
「20袋入って250円ですよ。お安いでしょう」
「あら本当。ではこれもお願いします」
おいくら?っじゃねーよ!マダム気取りが!無職の自覚を持て自覚を!ドラッグストアの店先に積み上がってる30袋入り158円のミネラル麦茶で十分だろ!お前みたいなペーぺーは大人しく鶴瓶師匠に微笑みかけられとけや!という怒りがこみ上げてきたのは、帰宅して袋の中身を見たときですよね。
瓶と、ラム酒と、高級麦茶。
2019年、夏。何も始まらない予感。