斜め上からナスコ

言わなくてもいいことを言いたい

伊藤くんの話

 

 

彼は、歌舞伎の女形になったらぴったりであろう色白の瓜実顔。細身の長身。

外国の少年のような洒落たファッションに身を包み、どこにでも颯爽と現れる。

 

甘え上手で媚び上手。でも自分の気に入らないことは一切受け入れない。

自分に酔っていてプライドが高く、理想ばかり大仰に語るが、現実には実家暮らしのアルバイト29歳 童貞。周りからの評判を気にするくせに、自分しか見えていない男。口ばっかりで中身は空っぽの人間。

自分が指摘されないように他人を指摘する。自分が傷つかないために他人を傷つける。安全な場所からひたすら他人を攻撃する。そのためなら平気で他人を振り回し、騙し、傷つける。そして彼の破壊力は彼のいないところにまで及んでいく。彼が原因で起こったいさかいで、いとも簡単に人間関係が壊れていく。

 

人間凶器。モンスター級の痛男。それが伊藤くん。

 

 

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わたしはこの小説を読んで、ある感覚を思い出しました。

昔観た「ゴーストワールド」という映画の中で、ソーラ・バーチが演じたイーニドというイタい女の子を見た時と同じ感覚。高校を卒業して周りが進学したり就職したりしていく中で、彼女だけはまだ大人になれず、現実を受け入れられず、社会に馴染めない。こんな社会に馴染まなきゃいけないくらいなら死んだ方がマシ、というくらいの尖り具合。そんなモラトリアムに囚われた彼女のイタさに苦笑いしながらも、観ていくうちにどんどん自分を見ているような感覚に陥ったんです。19歳の時でした。最終的には、これは自分だ!と認めざるを得なくなったのです。

 

伊藤くん AtoEを読んでまたその感覚を味わいました。

伊藤くんに感じる痛々しさ、嫌悪感、誰もが生来生まれ持つ 人間の毒の部分。彼はその集合体のような存在なのです。伊藤くんを見ていると何故だか自分がハッとさせられることがあったりします。こんな最低男なんだけど、もしかして自分もこうなっちゃっている時がないか?自分の心の奥底にいる小さな伊藤くんの存在を認めざるを得なくなる瞬間がありました・・・

 

 

この物語には伊藤くんと関わる5人の女が登場しますが、どの女も伊藤くんに振り回され、傷つけられ、大嫌いなはずなのに切り捨てられない。そして5人とも、自分と伊藤くんにはどこか似ているところがあると自覚するのです。だからこそ捨てられないのかもしれない。

 

それでもこの話の清々しいところは、みんな伊藤くんを踏み台として成長していくところです。伊藤くんは自分が傷つくことが何よりも許せない人間であり、逆に他人を傷つけることには全く無頓着なので、彼と関わる人はボロボロになります。でも、結局のところ人は傷ついて成長していく部分もあります。

 

伊藤くんを鏡として、自分の腐った部分を発見し、その腐りを伊藤くんもろとも切り捨てる。そうすることで彼女たちは、今までの自分から新しい自分へとステップアップしていくことができた。そう考えると伊藤くんは、凄まじい勢いで他人をズタズタにしながらも、他人の成長に寄与しているのではないかとすら思えてしまいます。

 

実際にここまで酷いモンスター級には出会ったことがないですけど、こういう人って本当にいるのかなぁ。似たような感覚を持ってる人は思い浮かんだけど・・・こういう人の精神構造って一体どうなっているのか見てみたいと思ってましたけど、最終章でそれが明かされた気がしました。伊藤くんの真意というか、スタンスが非常にわかりやすく解説されていました(笑)むちゃくちゃ怖かったけど・・・こいつ悟り開いてんな、と思いました。伊藤くんの全てを受け止めてくれる人は現れるのか?気になるところですが、関わらない方が良さそうです。

 

 

この小説は最近映画化されていて、今年の1月から公開されているみたいです。実のところ、わたしはYouTubeでこの映画の予告編を観て、気になったので小説を読んでみました。まぁ〜、岡田将生が伊藤くんにぴったりハマっていそうです。予告編の伊藤くんのインパクトが強かったものだから、小説を読む時の伊藤くんのイメージは完全に岡田将生でした(笑)

 

 

岡田将生、ちょっと前にすごくハマったんですけど、やっぱりカッコいいなー!わたしの周りの人は あんまり共感してくれないんですけどね。岡田将生の魅力に。彼は純粋な爽やか男子を演じるのもいいけど、わたしはこっちの狂気に満ちた役をやる岡田将生のほうが断然好きです。映画観に行くお金も時間もないので、DVD出たら借ります(笑)

 

 

 

久しぶりの投稿でした。ぜひお試しあれ!