斜め上からナスコ

言わなくてもいいことを言いたい

うっかりしてたら1日12時間働くことになってた

 

 

 

 

勤務先が営業時間短縮になり、たぶん6月いっぱいは短縮営業だろうと言われた。お給料が減ってしまったので軽くバイトでもしようと探したら、家からチャリで行ける距離の、超大手アパレルショップが【接客なしの品出しスタッフ】を募集していた。どの街にも必ずある赤い四角いロゴマークの店、たぶんここの服持ってない日本人ってデヴィ夫人とかくらいじゃないの?っていうあのブランド。正直わたしはここの服で1週間コーデ作って雑誌に掲載できるくらいの愛用者なもんで、高校の修学旅行でみんなが洒落込んでるなか一人ユ◯クロ(もう面倒臭いから言う)の服で固めていった経験あるくらいの愛用者なもんで、そんな店の品出しなんて朝飯前よぉ!と思って応募してみたというわけだ。

 

 

それにしても、服屋のことを「アパレル」と呼ぶことさえもちょっと恥ずかしくて抵抗を感じるレベルの人間が、品出しだけとはいえ服に触る仕事に果たして受かるのかどうか怪しかった。が、向こうは猫の手を借りたいほどに人手不足だったらしく、簡単に採用だった。6月の初めのことだ。

 

 

開店前の店内の掃除と商品棚の整理整頓、開店後はバックヤードでひたすら品出し作業。黙々と同じことの繰り返しをするのは得意なので何の苦にもならない。小学生の頃、母と一緒に衣料品の買い物に行くと、母の買い物の長さに疲れた私が、靴下ワゴンに乱雑に積み上げられた靴下をおもむろに端から綺麗に並べ直して回っては売り場が見違えるように整頓され、恥ずかしいからやめなさいよと母に注意されていたことを思い出す。じゃあさっさと買い物済ませろってんだ、と思っていたけど、今となっては私もたぶんあの時の母と同じくらい時間をかけて服を見ている。

 

 

初めて服屋で働いてみて驚いたことが一つある。それは、埃問題の深刻さである。そういえば客として訪れる際も、埃ひとつ落ちていないユ◯クロなど私は見たことがない(悪口)でも、今度この店を訪れる時は床を注意深く見てほしい。絶対にどこかしらに綿埃が転がっているから。酷いなぁ、服屋なのにいつも埃だらけだなって思っていたけど、働いてみてわかった。服屋だから埃だらけなのだ。以前に、勤務先の飲食店で客のおじさんがテーブルの上の虫を潰して見せて「食べ物屋なのに虫がいる。ちゃんと清潔にして」と嫌な顔をしてきたことがあった。ごもっともだし申し訳なかったけれど、後になって、いや違うのよ、「食べ物屋なのに虫がいる」のではなくて「食べ物屋だから虫がいる」のよ、と冷静にツッコミを入れたくなったことがあった。だからといって、じゃあしょうがないねと許されるものでもない。服屋の埃問題は、まさにそれに似ていた。

 

 

綿埃とは、服の繊維などが落ちて集まって塊になりできるものだ。だから服屋ではとにかく、とにかく埃が出る。昨日あんなに念入りに掃除機をかけたはずのに、次の日にはもうでっかい埃の団子がそこいらじゅうに転がっていて愕然とする。いや次の日どころか、朝に掃除機をかけても昼には埃が転がり始めるくらいだ。コロコロとモップとハタキを駆使してなんとか埃を取り除くのだが、人間が二酸化炭素を吐き出すのと同じように服は埃を吐き出すので、キリがないのは当たり前なのである。いたちごっこである。

 

 

そしてどの職場にも、イチャモンつけたがりオバさんが存在する。(さて今、あなたの頭に浮かんだのは誰ですか?)朝清掃の最終チェックをするスタッフさんというのが居て、開店前に店中を回っては、まだ埃の残っているところを見つけ指摘してくるのである。もちろん私は、この店に何の義理があってこんなことまでしてるんだ?ってくらい精一杯、リストに載ってないとこまで見つけては掃除に勤しんでいるのにもかかわらず(性格上)、そんな真摯な若い短期バイトを捕まえては「ここまだ埃残ってるよ」だの「今度からこれもやってね」だのと、日々新たな埃スポットを突きつけてくる。彼女は人の仕事に満足するとか評価するということを知らない。渡る世間は鬼ばかりとかに出てきそうな、いかにも昭和時代のドラマに出てくる鬼姑のようなオバさんである。まったく時代遅れな人だ。もうちょっと令和仕様でやってくれよ、頼むから。

 

 

まぁそんな感じで埃取りに勤しんでいたので、それからというもの他店に買い物にいって綿埃を発見しても「そうなのよね」と寛容な態度を示せるようになった。そしてこの店にもきっとうるさいオバさんスタッフがいるんだろうなぁとか思ったりもする。スタッフは30代から50代の女性が多く、人数の多い女性の職場というものには「派閥」が付き物だ。バックヤードで繰り広げられる女子たちのゲスな会話にひっそり耳を済ませて「幾つになっても女子は女子だよな」とか思いながら、女たちの相関図を思い描きながら、第三者として彼女たちの動向を眺めているのはとても楽しい(分かりやすく性格悪い奴)。行き慣れた店の裏側を見るというのは、案外面白いもんだ。とても貴重な体験をしている。

 

 

と、そんなこんなで、朝一番から昼までバイトをし、一旦帰宅して一息入れたらまた夕方から21時まで本業の飲食店で働くという日々が続いていた。どちらも立ち仕事のため想像以上に体にこたえていたのだが、6月も半ばに差し掛かったころ、飲食店のほうの店長から思わぬ連絡があった。休業要請の解除などがあった影響か予想より予定が早まり、営業時間が通常に戻ることになったのだ。

 

 

短縮のため21時までだった勤務時間が、突如として通常通りの23時までに戻った。6月いっぱいは短縮営業と踏んでいたので、予想外だった。つまり、1日のスケジュールは短期バイトで午前中に6時間働き、夜は夜で6時間働く。1日の拘束時間は12時間になる。そんな日が週に5日ある。ちょっと稼ぐかと軽い気持ちでバイトを始めたら、過労死レベルで働くことになってしまった。何やってんだ自分。

 

 

休業明けで体力が落ちていることもあり、毎日フラフラになりながら職場と自宅の往復×2をする。どんなに頑張っても毎日就寝は24時近くになり、翌朝6時には起きてまた12時間労働する。なんだこれ、連続テレビ小説おしんか?もしや私はおしんなのか?視聴率60%か?大根飯うまいか?こんなにストイックな生活をしたのは、人生で初めてかもしれない。それが何故、よりによって今なのか。謎は深い。

 

 

1日の終わりの帰り道、放心状態で電車に揺られながら、脳内に懐かしのメロディが流れる。

令和仕様にしろってば。

 

 

バイトは来月まで続く。来月の目標。過労死に気をつける(熱中症に気をつける、のテンションで)